日本市場で成果が出ない
パートナー経由で始めた案件は、失注理由が自社に残らない
日本市場に入るとき、最初の案件をパートナー経由で作るか、直販で作るかを決める必要があります。この判断は、どちらが速く立ち上がるかでは決まりません。
パートナー経由の方が、たいていは速く立ち上がります。ただし、速く立ち上がった案件は、失注理由も、承認が止まった位置も、誰が反対したかも、自社の記録には残りません。残るのは結果だけです。
日本市場を読むための材料が手に入らないまま、数字だけが動きます。
協業から入った企業の方が増収比率は高い。ただし相手は代理店ではない
まず、日本で外資系企業が実際に何をしているかを確認します。
ジェトロ「2024年度 外資系企業ビジネス実態調査」(調査期間2024年10月15日〜11月17日、公表2025年3月25日、日本国内に拠点を置く外資系企業7,301社を対象、有効回答1,427社、有効回答率19.5%。SaaSに限った調査ではなく、製造業・卸売業・商社を含む外資系企業全体が母集団です)では、国内の企業・大学・研究機関との協業・連携を実施または検討している企業が32.2%でした(n=1,380。実施している20.7%、実施したことはないが検討している11.5%)。情報通信業に限ると、実施25.0%と検討17.4%で合計42.4%になります(n=144)。
売上との関係も出ています。協業を実施している企業のうち前年度比で増収だったのは57.0%(n=270)、検討している企業は52.0%(n=150)で、実施も検討もしていない企業の45.9%(n=796)を上回りました。回答企業全体の増収比率は48.7%です。ただしこれは相関であって、協業が増収の原因だと示したものではありません。伸びている企業の方が組む相手を見つけやすい、という向きの説明も同じ数字で成立します。
読むべきは、協業の相手の内訳です(n=522、複数回答)。
- 大企業(代理店を除く):45.0%
- 中小企業(代理店・スタートアップを除く):42.7%
- 大学:38.5%
- 代理店:25.9%
代理店は4番手です。サービス業だけを見ると、大企業55.1%に対して代理店は20.3%まで下がります(n=187)。
日本で成立している協業は、販売を委託する代理店契約とは限らない、ということです。協業の内容の1位は共同マーケティング・販路開拓(日本市場向け)で40.5%、情報通信業では58.9%でした(n=519、複数回答)。売ってもらう相手ではなく、一緒に市場を開ける相手を探している企業の方が多い。「パートナー経由か直販か」という問いの立て方自体が、選択肢を2つに狭めています。
本社のパートナー網は、日本では3番目の入口にしかならない
本社がグローバルで契約している事業者に日本を任せる、という案は必ず最初に出ます。同じ調査の別の設問が、この案の位置づけを示しています。
協業の相手を見つけるために使った、または使う予定の手段は次の順でした(n=507、複数回答)。
- 国内の展示会やイベントへの参加:68.8%
- 既存のパートナー企業を通じた紹介:49.1%
- 海外親会社を通じた紹介:28.0%
海外親会社経由は3番手で、国内の展示会の半分以下です。サービス業では既存パートナーからの紹介が54.6%まで上がり、海外親会社経由は30.6%でした(n=183)。
本社の名簿に載っている会社が、日本で当該領域の顧客を持っているとは限りません。日本で相手を見つけている企業の多くは、現地で足を使っています。本社の紹介を入口にする前提で計画を組むと、想定より2四半期は遅れます。
直販から始める側の制約は、入口より前にある
では直販から始めればよいかというと、こちらの制約は案件よりも前の段階にあります。
同じ調査で、人材確保が困難(見込みを含む)と答えた企業は42.4%でした(n=1,385)。困難と答えた企業に職種を聞くと、営業・マーケティング人材が57.3%で最多、次いでIT・技術人材が39.1%です(n=583、複数回答)。東京・神奈川・愛知・大阪の大都市圏に限ると、営業・マーケティング人材は61.7%まで上がります(n=472)。
直販から始めるという判断は、実務上は「日本で営業を採用し終えてから始める」という判断です。この点は外資SaaSの日本参入で最初に詰まったのは、翻訳でも価格でもなく採用だったで扱いました。
判断は、最初の10件の記録が自社に残るかで決める
ここまでの数字は、どちらが正しいかを教えてくれません。教えてくれるのは、どちらにも立ち上がりの制約があるという事実だけです。
そこで判断の軸を変えます。最初の10件の案件について、次の3つが自社の記録に残るかどうかで決めてください。
1. 誰が反対して、どこで止まったか。 日本の商談は承認の段階が複数あります。案件が止まった位置が分からなければ、資料も価格表も直しようがありません。パートナーの担当者の頭の中にある情報は、自社の学習材料にはなりません。
2. 失注理由。 パートナー経由の失注は「先方の予算が付かなかった」で報告が終わりがちです。候補から外された理由が分からないまま、同じ理由で外れ続けます。
3. 案件の計上ルール。 パートナー経由と直販が同じ管理画面に入っていないと、同じ会社の案件が二重に立ち、どちらの経路がいくら生んだかも読めなくなります。パートナー側の案件登録と自社の商談を、初日から一本のルールで数えてください。
3つとも残らないなら、案件は動いても市場は分かりません。逆に、この3つを契約と運用に書き込めるなら、パートナーから始めて構いません。その場合は速く立ち上がる方を選べます。
実装そのものは重くありません。顧客管理に項目を8つ足すだけです。紹介元、紹介者、紹介の種別、紹介日、手数料の対象かどうか、先方の担当者、進捗、関連する商談。この8項目があれば、パートナー経由の案件も直販と同じ粒度で読めます。
なお、海外SaaSの日本市場参入の成功率や撤退率について、日本で公開された一次データは存在しません。経済産業省の外資系企業動向調査は令和2年度で廃止されており、以降の統計はありません。他社がどちらの入口で成功したかを調べても、答えは出てきません。自社の最初の10件が、唯一の情報源になります。
日本市場の入口をパートナーにするか直販にするかは、立ち上がりの速さではなく、意思決定の経緯が自社の記録に残るかで決める。
今パートナー経由で動いている案件を3件選び、直近の失注理由を読んでみてください。3件とも「予算」か「タイミング」で終わっているなら、その経路からは売上は入っていても、市場についての情報は1件も入っていません。
収益の経路を、売上の合計ではなく学習の経路として設計する考え方はレベニューアーキテクチャとはにまとめています。
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