日本市場で成果が出ない

更新日が予算年度をまたぐと、稟議はもう一度必要になる

更新日が予算年度をまたぐと、稟議はもう一度必要になる

更新まで90日を切ったところでリマインドが立つ契約が、なぜか毎年同じ時期に止まる。そんな相談を何度か受けたことがあります。担当者の熱意でも、製品への満足度でもありません。契約した日から数えて1年後、という更新日の決め方そのものが、日本の顧客の予算の動き方と噛み合っていないだけです。

契約した日を起点に数えると、二回目の予算には乗っていない

海外SaaSの多くは、更新日を契約の署名日から数えます。9月に契約すれば、翌年の9月が更新日です。仕組みとしては素直ですが、顧客側の予算年度とは無関係に決まる日付です。

東証プライム市場の上場企業では、3月決算が68%、12月決算が13%、2月決算が5%です(野村證券投資情報部、2023年3月公表、東証プライム上場企業の決算月構成にもとづく整理)。多数派は4月始まりの年度を回しています。9月に契約した会社であれば、その9月はすでに今期の半分を過ぎた時点です。来期の予算は前年の1月から2月にかけて組まれているので、9月契約の更新日は、今期の予算にも来期の予算編成のタイミングにも乗っていません。

「もう使っているから通しやすいはず」という読みが外れる

本社の感覚では、更新は新規より軽い話のはずです。すでに評価は終わっていて、使われていて、満足もされている。稟議も新規ほど分厚くならないだろう、と。

ところが日本の多くの現場では、支出は「今期の予算に線として入っているか」で通り方が変わります。春に組んだ予算表にその支出の枠があれば、更新は表の中の一行を承認するだけの話です。枠が無ければ、金額の大小に関わらず、追加予算か予算流用としてもう一度稟議を起こす必要が出てきます。満足度が高くても、この手続きの重さは変わりません。むしろ「すでに使っているものになぜ改めて稟議が要るのか」を説明する分だけ、新規より厄介になることもあります。

差が出るのは満足度ではなく、着地点

同じ製品を、同じように評価している二社があるとします。一社は4月に契約していて、更新日は翌年の4月。もう一社は9月に契約していて、更新日は翌年の9月。前者の更新は、ちょうど新年度の予算が動き出す時期に重なります。後者の更新は、年度の折り返しで、予算表がすでに固まった後にやってきます。

CSチームが見ている解約リスクのスコアは両社とも同じかもしれません。しかし片方は稟議が要らず、片方は稟議が要ります。本社のダッシュボードに出るのは「9月契約の顧客群は更新率が低い」という数字で、そこから「日本の顧客は満足していない」と読まれることがありますが、実際に起きているのは、予算年度との位置関係の違いです。

採らなかった案

リマインドを90日前から120日前に早めるだけでは直りません。着地点そのものは動かないので、早く気づいても、その顧客の予算表に枠が無いという事実は変わらないからです。

複数年契約にする案も検討しましたが、これも根本の解決にはなりません。初年度の契約自体は結局どこかの予算年度に乗せる必要がありますし、日本の顧客は特に取引実績の浅い相手との複数年コミットに慎重です。仮に複数年で契約できても、更新のたびに価格改定の話が乗ることが多く、結局同じ着地点の問題に戻ってきます。

効くのは、初回期間を年度末に合わせて短くすること

効果があったのは、初回の契約期間を顧客の決算月に合わせて変則にする交渉です。9月契約であれば、まず翌年3月までの7か月契約にして、そこから先を1年更新に乗せ直します。最初の更新日を、顧客の予算編成がすでに動いている時期に着地させるという発想です。

価格を初年度だけ月割りにする調整は必要になりますが、更新のたびに「今期の予算のどこに入るか」を一から探す作業がなくなります。

初回期間の変則が交渉で通らない場合は、最低限、CRMに顧客の決算月を契約日とは別の項目として持たせてください。更新に向けた会話を始めるタイミングを、契約日からの逆算ではなく、顧客の予算編成が始まる時期(4月始まりであれば前年の1月ごろ)から逆算するだけでも、担当者が稟議の有無を早く確認できるようになります。

海外SaaSの契約更新を、買い手の予算年度に合わせて設計する考え方は、レベニューアーキテクチャとはにまとめています。

更新日が顧客の予算年度の外側に着地すると、満足度に関係なく稟議がもう一度必要になります。契約日から数えるのではなく、顧客の決算月を基準に更新日を設計してください。

今週、更新予定の契約を全部開いて、顧客の決算月と契約の更新日がどれだけずれているかを数えてみてください。半年以上ずれている契約の数が、来期あなたが説明を求められる更新リスクの数です。

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