商談が進まない・受注が読めない
失注理由が毎月「価格」で埋まるのは、選択肢の設計の問題です
失注理由の欄に、毎月「価格」が並びます。営業が事実をごまかしているのではありません。実際に起きたことを書ける選択肢が、そこに無いだけです。
選択肢を、売り手の言い訳ではなく、買い手が実際に候補から外す理由で作り直してください。
そのうえで「社内承認で止まった」を、独立した1項目として必ず置きます。
「価格」は、選べる中で一番近かっただけ
商談を落とした営業が理由を入力する場面を思い浮かべてください。選択肢は「価格」「競合」「タイミング」「予算なし」「その他」の5つ。実際に起きていたのは、3か月間、稟議が部長のところで止まったまま動かなかったことです。
この状態を指す選択肢がありません。営業は一番近い「価格」か「タイミング」を選びます。
翌月も同じ理由が並び、営業会議では「値引きの余地を検討しよう」という話になります。値引きは、止まった承認を動かしません。記録が間違っているのではなく、記録できる形になっていないだけです。
買い手が候補から外す理由は、売り手の選択肢に載っていない
IDEATECHと北川裕康氏の共同調査(2026年4月公表、n=307。年間契約額または一括導入費300万円以上のB2B商材に2名以上で関与した回答者に限定した調査PRであり、大型かつ複数名関与の案件に偏る点に注意)では、検討の途中で候補から外した理由の上位は「自社の課題に対応する機能が不足していた」39.1%、「自社の企業規模に合わないと感じた」34.5%、「導入事例に自社と似た企業がなかった」26.4%でした。
このうち後ろの2つを選択肢に持っているCRMを、私はほとんど見たことがありません。企業規模の不一致も、似た事例の不在も、価格でも競合でもありません。売り手が用意する材料の問題です。
同じ調査で、発注先を候補に加えた決め手の1位は「自社と似た規模の企業の事例があった」44.3%(この設問のみn=298)でした。外れる理由と選ばれる理由は、同じ軸の裏表です。選択肢がその軸を持っていなければ、何度失注しても打ち手は出てきません。
最も多い失注は、競合ではなく「決まらなかった」
EbstaとPavilionの共同調査(2024年、n=420万商談・530社。海外の調査であり日本のデータではありません)では、失注理由の61%が「意思決定できない」でした。同じ調査で44%の案件が期日をまたいでずれ、ずれた案件の勝率は67%下がっています。
競合に負けた案件よりも、誰にも決まらなかった案件のほうが多い。ところが「他社に決定」の選択肢はどのCRMにもあり、「決まらなかった」はどこにもありません。
日本ではこの層がさらに厚くなります。先のIDEATECH調査では、承認段階が2段階の企業が60.9%、2段階以上が8割を超えます。段が増えるほど、どこかで止まる確率は上がります。
選択肢は5つに絞り、「社内承認で止まった」を独立させる
私が実装で使っている5つは次の通りです。
- 課題に対して機能が足りなかった
- 社内の承認が止まった、または下りなかった
- 予算が確保できなかった(時期のずれを含む)
- 他社に決まった
- 検討そのものが止まった(課題の優先順位が下がった)
運用のルールも3つだけ決めます。
- 「その他」を残すなら、自由記述を必須にします。 同じ内容が月に3件以上出たら選択肢に昇格させ、半年で1件も選ばれない選択肢は消します。選択肢は固定した資産ではなく、毎期見直す設計物です。
- 2番を選んだら、止まった段を必ず1つ記録します。 部門長・役員・情報システム・法務・財務のいずれか。この1項目が、翌期の営業資料と稟議支援の内容を決めます。
- 4番は、相手の社名を必須にします。 社名が書けないなら、それは4番ではなく5番です。「競合に負けた」という報告の多くは、ここで消えます。
数を増やせば分析の精度が上がるわけではありません。効くのは項目数ではなく、項目が互いに排他的で、それぞれに次の打ち手が紐づいていることです。
決裁が止まった理由の日本のデータは、まだ存在しない
承認段階の数までは公開された調査があります。一方で、稟議が否決された理由や決裁が止まった理由の構成比について、日本の公開された一次調査は確認できていません。
つまりこの数字は、外から借りてこられません。自社の失注理由欄が、唯一の情報源になります。欄の設計に時間をかける価値があるのは、そのためです。
失注理由は営業の記憶ではなく、選択肢の設計で決まります。
まず直近3か月の失注案件を10件開き、「価格」と記録された案件のうち、実際に値引きの交渉が発生していた案件が何件あるかを数えてください。半分に満たないなら、その欄は今、何も測っていません。
失注は、分類されて初めて次の設計の材料になります。収益の構造として何をどこで測るかはレベニューアーキテクチャとはにまとめています。
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