日本市場で成果が出ない

本社の契約書をそのまま出すと、日本の商談は法務で止まる

本社の契約書をそのまま出すと、日本の商談は法務で止まる

海外SaaSの日本参入を手伝っていると、価格も機能も合意した案件が、契約書を送った後で止まることがあります。

止まり方が独特です。相手は断りません。返事が来なくなるだけです。

営業側の記録には「法務確認中」とだけ残り、そのまま四半期をまたぎます。

法務は署名の直前ではなく、検討の途中からもう部屋にいる

IDEATECHとデマジェン総研の北川裕康氏による共同調査(2026年6月9日公表、調査期間2026年5月25〜26日、有効回答330。年間契約額500万円以上のB2B業務ソフトウェア・SaaSまたはITインフラ・セキュリティ商材の購買に2名以上で関与した人を対象としたインターネット調査で、調査PRを事業とする会社の企画である点は割り引いて読む必要があります)では、検討に関与した専門部門として法務が33.2%挙がっています。情報システム42.2%、経理・財務38.2%に次ぐ位置です(複数回答、n=325)。

3件に1件は、契約書が届く前から法務が案件を見ていることになります。

つまり法務レビューは、受注が決まってから始まる事務手続きではありません。検討期間の中で、こちらから見えない場所で先に走っています。

止めているのは条項の中身ではなく、誰がいつ答えるかが決まっていないこと

相手の法務から赤字が返ってきたとします。日本側の担当者は、それを本社の法務にメールで送ります。

そこから先の工程が、誰の手にも握られていません。時差があり、英語で書き直す必要があり、優先度は他の国の案件と並びます。2週間経っても、日本側は「本社で確認中です」としか言えません。

買い手の法務にとって、回答がないことは条項が不利であることより重い。社内規程では、確認が取れていない項目は「未了」のまま残ります。未了を抱えたまま稟議に載せれば、その判断を引き受けるのは起案した担当者です。

だから担当者は待ちます。こちらから見ると、案件が黙ります。

日本の法務が最初に赤を入れる場所は、だいたい決まっている

準拠法と裁判管轄。自動更新と中途解約の通知期間。責任の上限と免責。個人データの取扱いと再委託の範囲。それと、反社会的勢力の排除条項が入っているかどうか。

日本が特殊なのではありません。多くの企業では、契約審査のチェックリストにこれらの項目があり、空欄のまま次に進めない作りになっているだけです。

裏を返すと、どこで止まるかは事前に分かります。分かるなら、赤字が返ってくる前に用意できます。

渡すのは直した契約書ではなく、どこが動いてどこが動かないかの一覧

条項ごとに、譲れる、条件付きで譲れる、譲れない、の3つに分けた表を1枚作ります。譲れない項目には理由を1行と、代わりに出せる案を1つ。各項目に、本社側で誰が答えるかと、その回答にかかる標準的な日数を書きます。

相手の法務が知りたいのは、こちらの条件が正しいかどうかではありません。この論点が何日で片づくかです。

途中でやめた案が2つあります。

契約書を日本語に訳して渡す案は、読みやすくはなりますが論点が1つも減りません。むしろ訳文と原文のどちらが優先するのかという論点が増えます。

最初から日本法準拠で全文を書き直す案は、本社の法務が飲みません。飲ませようとすると数か月かかります。実際には、日本向けの覚書1枚で足りる場面がほとんどです。

商談ステージに置くと、「法務待ち」が営業の主観ではなく日付になる

CRM側の設計は単純です。取引に法務確認の状態、セキュリティ確認の状態、回答担当者、回答期限の4つを持たせます。

ルールは2つだけ置きます。法務とセキュリティの確認が未了の案件は、契約締結のステージに進めない。期限を過ぎたら営業マネージャーに通知する。

これを入れると、「法務待ちです」という報告が日付に変わります。予測から外すかどうかも、担当者の感触ではなく、期限を何日超えているかで決められます。

契約書は受注後の事務ではなく、検討期間の中で動いている工程です。全体の考え方はレベニューアーキテクチャとはに置いています。

法務レビューは受注後の事務ではなく、商談の一工程です。

今週、進行中の日本案件を1件開いてください。契約書について、誰がいつまでに答えるかが書いてあるか。書いていなければ、止まっているのは条項ではなく工程です。

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