数字が部署ごとに合わない
受注率が上がったのに売上が下がったときに見る3つの数字
受注率が前期の18%から26%に上がり、同じ四半期の売上が前期を下回る。この組み合わせは珍しくありません。
原因は集計の誤りではありません。受注率は比率であって、金額を説明しないからです。
売上を決めるのは、商談数と受注率と平均単価の3つです。受注率だけを取り出して報告した時点で、残る2つが見えなくなります。
受注率は、3本のうちの1本でしかありません
売上は次のように分かれます。
売上 = クローズした商談数 × 受注率 × 平均単価
受注率が18%から26%へ上がったとします。同じ期間にクローズした商談数が120件から70件へ減っていれば、受注件数は21.6件から18.2件に落ちます。平均単価も下がっていれば、売上の下げ幅はさらに広がります。
受注率は改善しています。売上は減っています。両方とも事実です。片方だけを報告すると、事実の半分が消えます。
受注率が上がる経路は3つあり、実力なのは1つだけです
上がり方によって、次に打つ手が正反対になります。
経路1|難しい案件が翌期へ押し出された。 クローズ日を先送りした案件は、当期のクローズ母数から抜けます。難しい案件ほど押し出されるので、残った母数の質は上がり、受注率も上がります。営業のやり方は何も変わっていません。
経路2|小型案件の比率が上がった。 決裁の段数が少ない小さい案件は、速く決まって受注率も高く出ます。大型案件を追う余力が無くなった期ほど、この構成比が変わります。受注率は上がり、平均単価は下がります。
経路3|営業に渡す基準を絞った。 検討が進んでいない見込み客を商談に呼ぶのをやめると、商談数は減り、受注率は上がります。これだけが設計の成果です。
3つは数字の上では同じ「受注率の改善」に見えます。区別できるのは、商談数と平均単価を横に並べたときだけです。
押し出された案件は、翌期に戻ってきません
経路1が厄介なのは、当期の数字を良く見せながら、翌期の数字を確実に悪くする点です。
EbstaとPavilionの「2024 B2B Sales Benchmarks」(2024年2月公表、商談420万件・530社を対象とした海外の調査であり、日本のデータではありません)では、案件の44%がクローズ予定日を過ぎてスリップし、スリップした案件の勝率は67%低下していました。
同じEbstaの「2025 GTM Benchmarks」(商談65万5,000件・387社、こちらも海外調査)では、スリップ期間別の実勝率が1か月で13%、3か月で8%、6か月超で3%まで落ちています。
つまり、当期のクローズ母数から抜けた案件は、翌期に戻ってきて受注率を押し上げてはくれません。翌期のクローズ母数に低い勝率で積み上がります。当期の受注率の上昇分は、翌期に利息付きで返ってきます。
日本では、当期の受注率は当期の打ち手を説明しません
もう1つ、日本のB2Bで受注率を読むときに外せない制約があります。分子と分母が、別の時期に生まれた案件だということです。
IDEATECHと北川裕康氏の共同調査(2026年4月公表、n=307。年間契約額または一括導入費300万円以上のB2B商材の導入・見直しに2名以上で関与した会社員・経営者が対象。調査PRであり、大型かつ複数名関与の案件に限った値です)では、検討開始から発注先決定までが3〜8か月だった割合は63.6%、6か月以上が約4割でした。承認段階は2段階が60.9%で、2段階以上が8割を超えています。
検討に半年かかる商材で、今四半期にクローズした案件は、2四半期前に作られたものです。今四半期に営業資料を直しても、その効果が受注率に出るのは半年後です。
今期の受注率が上がったことを、今期にやったことの成果として報告すると、ほぼ確実に間違った施策が評価されます。
比べる相手がいないので、自社の3本の線でしか読めません
「うちの受注率26%は高いのか低いのか」という問いには、日本では答えが出せません。
日本のリードから商談への転換率、商談から受注への転換率について、公開された一次調査は見当たりません。海外にはEbstaのような大規模なデータがありますが、商材の金額帯も承認の段数も違うため、水準として持ち込めません。ベンダーの資料に出てくる「業界平均」は、母数と対象の定義がほぼ書かれていません。
比較先が無いということは、受注率は他社との比較ではなく、自社の時系列でしか読めないということです。そして時系列で読むなら、3本を同じグラフに並べる以外に方法がありません。
受注率を先頭に置くと、比率だけが読まれる。だから計算列にする
3本を並べるときに、順番があります。
- 同じ母集団に揃える。 受注率の分母は「当期にクローズした商談」であって「当期に作られた商談」ではありません。ここを混ぜると、受注率と商談数が別々のコホートの数字になります。
- 商談数・受注件数・受注金額・平均単価を、同じ表に4列で出す。 受注率は5列目に置く計算列にします。比率を先頭に置くと、比率だけが読まれます。
- クローズ日を変更した案件の件数を、6列目に足す。 経路1が起きているかどうかは、この列だけで分かります。
- 平均単価は中央値も併記する。 大型案件が1本入っただけで平均は動きます。
この4つが揃った表は、1枚で「なぜ売上が動いたか」に答えます。指標を増やす必要はありません。
受注率は単独では読めません。商談数と平均単価を同じ期間・同じ母集団で横に並べるまで、受注率の上昇は成果の証拠になりません。
今週やることを1つ。直近4四半期について、クローズ商談数・受注件数・平均単価・受注率の4つを1枚に並べてください。受注率が上がった四半期に商談数が減っていたなら、評価すべきなのは営業ではなく、その期に案件を押し出した理由です。
収益を変数に分けて、どこを直せば効くのかを決める考え方はレベニューアーキテクチャとはにまとめています。
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3本を並べる前に、そもそも「商談」の数え方が部署ごとにずれていることがあります。その場合は商談化率が部署ごとに違うのは、母数の定義がずれているからを先に読んでください。並べた数字に判断基準を付ける手順はダッシュボードを増やす前に、判断基準を1行決めるにあります。
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