日本市場で成果が出ない
日本語化を製品ページから始めて、問い合わせが増えなかった
海外SaaSの日本ローンチで、最初に予算がつくのはたいてい日本語化です。サイト、製品ページ、カタログ、UI。上から順に訳していく。
半年後、日本語のページは揃っているのに、問い合わせの数はローンチ前とほとんど変わらない。
訳す量が足りなかったわけではありません。訳す順番が、買い手が詰まる場所と関係していなかった。
日本語のページは営業の補助ではなく、営業がいない時間の唯一の材料
日本の大型購買では、買い手は営業に会う前にかなり進んでいます。IDEATECHと北川裕康氏の共同調査(2026年4月16日公表、調査期間2026年3月23〜26日、n=307。年間契約額または一括導入費300万円以上の商材の導入・乗り換えに2名以上で関与した人に限定した調査PRのため、桁感として読んでください)では、営業と本格的にやり取りした時点で購買プロセスは平均約40%進行済み、接触前に約9割が複数社をリストアップしていました。
日本語のページが読まれるのは、営業が同席していない時間です。そこで何が足りなかったかは、営業からは見えません。
日本チームが本社に「反応が薄い」と報告するとき、根拠になるのは商談化数です。落ちているのはその手前で、そこには記録が残らない。営業に会う前の区間まで含めて収益の流れを一続きで見る考え方は、レベニューアーキテクチャとはにまとめています。
買い手が自力で出せないのは、機能の説明ではなく導入後の見積もり
同じ調査チームの第2弾(2026年6月9日公表、調査2026年5月25〜26日、有効回答330、設問によりn=325または239。年間契約金額500万円以上の業務ソフトウェアやITインフラが対象。こちらも調査PRです)が、営業接触前に自社で判断が難しかった項目を聞いています。1位は導入後の運用負荷の見積もりで56.3%。次が機能比較47.1%、ROIの試算41.5%。
判断材料として助かったコンテンツの1位はROI計算シミュレーター55.4%、2位が自社業界・類似規模の成功事例46.5%でした。逆に購買判断に影響しなかったものとして挙がったのが、一般的な業界動向レポート49.5%と機能比較表46.2%です。
機能比較は「難しかった」にも「影響しなかった」にも出てきます。矛盾ではありません。難しいのは機能を並べることではなく、並べた結果を自社の運用に当てはめる部分です。そこを埋める材料がないと、比較表は読まれても効かない。
本社の「引き算」をそのまま日本語にすると、足りない情報が日本語で足りないままになる
グローバル企業のクリエイティブは、たいてい削る方向で洗練されています。短いコピー、広い余白、抽象的な価値の言い切り。ブランドとしては強い。
日本の検討者は逆を求めます。仕様の細かさ、実績、運用開始後に誰が何を見るか。好みの差ではありません。社内で他人に説明する必要があるかどうかの差です。自分が納得しても、持っていく資料が薄ければ稟議は止まります。
以前、グローバルのEC・テクノロジー企業の日本ローンチに関わったとき、いちばん時間を使ったのは翻訳ではなく本社のブランドガイドラインとの調整でした。日本側が足したい情報量が、本社の設計では「入れてはいけない要素」に分類されている。訳す作業に見えて、実際は情報設計の交渉です。
翻訳を先に発注すると、この交渉が終わる前に成果物が固まります。あとから足すには、もう一度お金がかかる。
訳す順番は、候補から外された理由が決める
第1弾の調査では、候補から外した理由の上位が機能不足39.1%、企業規模が合わない34.5%、似た企業の導入事例がない26.4%でした(複数回答)。後ろの2つは、製品ページを何ページ訳しても埋まりません。
やることは3つです。
- 直近で候補から外された案件を、理由で3つに分類する
- その3つに答える材料だけを先に日本語にする。似た規模の事例、運用開始後に必要な人手、費用の内訳
- 製品説明の全訳は、そのあとに回す
順番を変えると、翻訳の総量はむしろ減ります。全部訳す前提が消えるからです。
日本語化は「全部を訳す」作業ではありません。日本の買い手が営業に会う前に自力で確かめる項目を決めて、そこから訳してください。
今週やるなら、直近3か月で失注または見送りになった案件を5件開いて、外れた理由を一言ずつ書き出す。先に日本語にすべきページは、その5行から決まります。
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先に日本語にすべき「似た規模の事例」を、どう作るかは別の問題です。事例記事で聞くのは感想ではなく「自社と似ているか」の材料に、取材で何を聞くかを書きました。
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