商談が進まない・受注が読めない
商談数を増やしても売上が伸びないときの見分け方
「まず商談の数を増やしましょう」で、その四半期は動きました。商談件数は増え、パイプラインの総額も過去最高になりました。受注金額は、前の四半期とほとんど同じでした。
会議では2つの説明が先に出ます。商談の質が落ちた。あるいは、まだ人が足りない。どちらもありうる話です。ただこのときは、増えた商談が全部同じ場所で止まっていました。
増えた商談は、同じ待合室に並んだだけだった
止まっていたのは、提案が終わって先方が社内で検討している段階です。
増やす前、その段階に何件あるかを誰も数えていませんでした。数えていたのは商談件数、パイプライン金額、受注率の3つ。どれも必要な数字ですが、3つとも「いま何件が、誰の手元にあるか」には答えません。
だから、増えた分が入口から入って同じ場所に積み上がっていることに、四半期の途中では気づけません。期末に並んだのは「パイプラインは過去最高」と「受注は横ばい」の2行でした。この2行が同じ資料に載ると、だいたい誰も触れないまま次の議題に進みます。
滞留は、増やしてから見つかります。増やす前に見えていれば、増やすかどうかの判断そのものが変わっていました。
待っているのは自社の営業ではなく、買い手の役員である
長期化がどこで起きているかは、日本のデータで確認できます。
IDEATECHが北川裕康氏(デマジェン総研)と2026年5月25日から26日に実施した調査で、73.5%が当初想定より検討が長期化したと答えています。リサピー®︎企画のインターネット調査で、対象は直近12か月以内に年間契約金額500万円以上のB2B業務ソフトウェア・SaaSまたはITインフラ・セキュリティ商材の導入・乗り換え・大型契約更新に2名以上で関与した330名。この設問はn=325です。
その人たちに原因を聞いた設問(n=239、複数回答)の並びが、そのまま論点になります。1位は「経営層の判断が下りるまで時間がかかった」63.6%。以下、情報収集45.2%、関与部門・人数の増加38.1%、予算承認31.0%。そして「候補企業からの情報提供が不十分だった」は16.7%で、下のほうにあります。
長期化の主因として挙がっているのは、売り手が何かを出していないことではありません。買い手の社内で、決める人の順番が回ってくるのを待っている時間です。
規模も同じ調査で見えます。意思決定に7名以上が関与した案件が58.5%。関与した専門部門は情報システム42.2%、経理・財務38.2%、セキュリティ37.2%、法務33.2%と続きます(いずれもn=325、複数回答)。営業を1人足しても、このうちどの部門の処理能力も増えません。
注記として、実施主体のIDEATECHは調査PRを事業とする会社で、この調査自体が同社サービスの実演を兼ねています。パネル型のインターネット調査でもあるので、比率は桁感と順位で読むのが妥当です。それでも、63.6%と16.7%の差はひっくり返る幅ではありません。
商談を増やすと、1件を通すための時間が最初に削られる
やや厄介なのは、増やしたことの副作用です。
案件を買い手の社内で通すためにやることは、どれも地味です。稟議にそのまま貼れる文章を書く。運用負荷の見積もりを作る。経理と法務が聞いてくることに先に答えておく。決裁者に会う機会を作る。1件ごとの作業で、量が読めず、CRMに項目がありません。
一方、商談の実施は予定表に入り、件数で数えられ、報告に載ります。
同じ人の時間を、記録に残る仕事と残らない仕事が取り合うと、先に削られるのは後者です。怠慢ではありません。見られている側が優先されるだけです。
工程のどこか一箇所が全体の速度を決める、という話自体は目新しくありません。日本のB2Bで扱いにくいのは、その一箇所が自社の外にあって、しかも自社のCRMに映らないことです。だから前工程を増やした判断は、後工程を遅くしたという形では誰の報告にも出てきません。出てくるのは、パイプラインが増えて売上が動かなかった、という結果だけです。
押し込む先にも余力の限界があります。同じ調査では、長期化の原因として「担当者の業務負荷で検討時間が確保できなかった」が13.4%挙がっています(n=239)。相手の担当者も、渋滞の中にいます。
止まっている位置を言えない案件が何件あるかで、増やす判断は決まる
判断の順番を1つ入れ替えます。商談数を増やすかどうかを決める前に、進行中の案件について、止まっている位置を言えるかどうかを数える。
言えないものが多いなら、増やす判断はまだできません。増やした結果が受注なのか滞留なのかを、後から見分けられないからです。
当たりの付け方は30分で足ります。直近の失注案件と、3か月以上動いていない進行中案件を10件ずつ開いて、最後の活動履歴が自社発か相手発かだけを見る。
自社発が多ければ、止めていたのは自社です。提案作成が遅い、見積の社内承認が重い、単純に手が回っていない。この分布なら、商談数を増やすのも人を増やすのも効きます。相手発の待ちが多い場合は、同じ投資が滞留を伸ばすほうに回ります。効くのは、相手が社内を通すための材料のほうです。
正確な測定ではありません。方向は分かります。これを毎回同じ形で出せるようにするところからが、CRM設計の話になります。
失注が「候補に入らなかった」に偏り、滞留が自社側なら、増やすのは正解
条件は2つです。失注理由が「候補に入らなかった」「接触できなかった」に偏っていること。そして進行中案件の止まっている位置が分かっていて、その多くが自社側にあること。この2つが揃っているなら、商談数は素直に売上に変わります。増やすなという話ではありません。
採らなかった案があります。営業1人が同時に持てる進行中案件の数に上限を置く案です。滞留は減りますが、上限に達した時点で新しい商談を断る運用になり、その判断を現場に持たせることになります。金額も確度も見えない段階で断らせると、通しやすい案件だけが残ります。上限をかけるより、止まっている位置を見えるようにするほうが、副作用なく同じ効果を取れると考えています。
買い手の社内工程まで含めて収益の流れを設計する考え方は、レベニューアーキテクチャとはにまとめています。
商談数が売上に変わるのは、案件が自社の手元で止まっているときだけです。買い手の社内で止まっているなら、増やした分は受注ではなく滞留になります。
今週、進行中の案件を一覧で開いて、1件ずつ「いまボールを持っているのは自社か相手か」を書いてみてください。書ける案件がどれくらいあるかで、来期の投資先を営業に寄せるか、提案材料に寄せるかが決まります。
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ボールの所在を勘で書かずに軸として持つには、営業の確度とは別の列が必要になります。その列の作り方と、予測から外す基準の決め方は確度90%でも、決裁が止まっている商談は予測から外すに書きました。この記事が「増やすかどうか」の判断で、あちらが「今期に数えるかどうか」の判断です。見ている軸は同じです。
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