CRM・SFAが定着しない
見せない範囲を細かく決めたCRMほど、必要な情報が共有されない
権限設計は、CRM導入の工程でいちばん揉めません。誰も反対しないまま、グループだけが増えていきます。
半年後、同じ組織から出てくる声は「必要な情報が見えない」です。
設定を間違えたわけではありません。出てきた要望の粒度を確認しないまま、全部を1枚の権限表に流し込んだ結果です。
「見せたくない」の中身を聞くと、機密はほとんど出てこない
非公開の要望を書き出すと、だいたい次に分かれます。
- 他の営業の担当顧客を見せたくない
- 他部署の案件を見せたくない
- 進行中の案件を、確度が固まる前に上に見せたくない
- 原価・仕入値・与信情報を営業に見せたくない
上の3つは、そのレコードの持ち主が誰かという話です。最後の1つだけが、項目の中身の話です。
守秘の観点で本当に効くのは、最後の1つだけ。上の3つは、機密ではなく気まずさです。
マツリカが2025年1月28日に公表したSFA/CRM活用課題調査(調査実施はIDEATECH、調査期間2024年11月25〜28日、n=101。B2B企業の営業部門管理職・主任が対象。SFAを提供するベンダーの自社調査で母数も小さいため、順位の傾向として読んでください)では、営業が情報を入力しない理由の5番目に「自分の成果やプロセスを人に見せたくないから」27.7%が入っています。
見せたくないという感覚は、現場の実感としては本物です。ただしそれは、統制の要件ではありません。
レコードを止めると運用が割れ、項目を止めても業務は止まらない
この2つは、設定した後の壊れ方がまったく違います。
項目を隠すのは安全です。原価を見せない設定を入れても、営業は商談を進められます。もともと見る必要がないから隠しているので、隠しても困りません。
レコードを隠すと、隠した数だけ組織が分割されます。担当者ごとに見える範囲を切れば、引き継ぎのたびに手動の権限付与が要る。部署ごとに切れば、全社のレポートが割れる。「他部署の案件は見せない」を通した組織が、四半期の予測を1枚にまとめようとして詰まるのは、この構造です。
しかも分割は自己増殖します。見えなくて困る人が出るたびに例外グループが1つ増え、増えるほど、誰が何を見られるかを説明できる人がいなくなります。
行き着く先は数字に出ています。同じマツリカの調査で、SFA/CRM利用の課題の3位は「必要な情報が適切に共有されないこと」39.6%でした。1位の「情報の入力・更新が煩雑なこと」43.6%、2位の「現場の営業メンバーが情報入力しないこと」40.6%と、ほぼ横並びです。
HubSpot Japanの年次調査(2024年2月19日公表、調査委託先マクロミル、売り手n=1,545、従業員51〜5,000名。CRMを販売する企業の自社調査です)でも、データ活用で困っていることとして「営業部署内のデータが適切に管理されていない」28.1%、「他部署とのデータ連携が進んでいない」24.4%が上位に並びます。
入力されない問題と、共有されない問題は、たいてい別々に語られます。権限設計の現場では、同じ設定から出てきます。
権限表を作る前に、非公開にする理由を一行だけ書かせる
やることは単純で、要望を受けた時点で理由を書いてもらいます。
「なぜ見せないか」に対して、法令・契約・人事情報のいずれかを書けるなら、項目単位で隠します。書けないなら、レコード単位の要望として保留にします。
保留にした要望には、代わりに2つを当てます。ひとつは、見えることを前提にした運用ルール。他人の担当顧客に直接接触しない、という約束は権限設定ではなく規律で守れます。もうひとつは、既定のビューです。自分の担当だけが最初に表示されれば、日常の不便はほぼ消えます。見えないことと、探さなくていいことは違っていて、現場が求めているのはたいてい後者です。
それでもレコードを分ける判断をするなら、条件を1つ付けてください。全社の数字を出す役割を先に決めて、その役割にだけ全レコードへの参照権を残しておくこと。ここを残さずに分割すると、翌四半期の予測会議で権限設計をやり直すことになります。
現場の「見せたくない」はほとんどがレコード単位の話で、本当に守るべきは項目単位の情報です。権限表を作る前に、この2つを分けてください。
よくあるつまずき
- 権限が細かいことを、統制が効いている証拠だと考える。 グループ数と統制の強さは比例しません。説明できる人が減るほど、統制は弱くなります
- 例外グループをその場で作る。 追加は5分、削除には承認が要ります。作る時点で、いつ見直すかを一緒に決めてください
- 旧システムの権限をそのまま持ち込む。 旧システムの制約に合わせて生まれた回避策が、新しい環境では理由のない複雑さとして残ります
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分けたことで全体が見えなくなる構造は、パイプラインを部署ごとに分けた結果、全社の予測が作れなくなったでも起きています。権限もパイプラインも、「分けたい」という要望にどう応えるかの問題です。
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