CRM・SFAが定着しない

取引金額が担当者ごとに違う単位で入る原因

取引金額が担当者ごとに違う単位で入る原因

パイプラインの合計が、請求の実績と合わない。差を追っていくと、原因は1件の大きな失注でも、予測の甘さでもありませんでした。取引金額の入り方が、担当者ごとに違っていただけです。

ある担当は、月額を税抜で入れていた。別の担当は、年額を税込で入れていた。もう1人は、初期費用まで含めた契約総額を入れていた。同じ月額10万円(税抜)・1年契約・初期費用30万円の案件でも、CRM上の金額は10万円、132万円、150万円のどれにでもなります。最大で15倍です。

誰も間違ったつもりはありません。ここがこの問題の面倒なところで、そして直しどころでもあります。

ずれた金額には、それぞれ入れた人なりの正しさがある

担当者は、直前に触った書類の数字を写しています。

見積書は税抜で出すことが多い。請求書は税込の合計が大きく載る。稟議は契約期間の総額で上がる。経理と話すときは月額で話す。B2Bの営業担当は、この4種類の書類を毎週のように行き来しています。

しかも、どれか1つに揃える外圧がありません。財務省の「総額表示に関する主な質問」(Q1)は、見積書・契約書・請求書は総額表示義務の対象にならないと明記しています。消費者向けの値札と違い、事業者間の書類は税抜でも税込でもよい。だから社内にも、税抜の書類と税込の書類が普通に並びます。

つまり、担当者が写した数字はどれも「その書類の上では正しい」。ずれているのは数字ではなく、どの書類を写すかの選び方です。

「金額」という1項目に、4つの問いを同時に答えさせている

画面の上にあるのは「取引金額」という項目名と、数字を入れる枠だけです。その枠1つで、担当者は実は4つの問いに答えています。

  • 税抜か、税込か
  • 月額か、年額か、契約期間の総額か
  • 初期費用や導入支援のような一回きりの費用を含めるか
  • 円で入れるか、千円単位で入れるか

問いが4つあるのに、画面には1つも書いていない。答えは担当者の頭の中で、毎回そのとき触った書類に引っ張られて決まります。

よくある対処は、運用マニュアルに「取引金額は税抜・年額で入力」と書いて周知することです。これは3か月もつかどうか。ルールが画面の外にあるからです。新しく入った担当者はマニュアルを読む前に入力しますし、読んだ人も、請求書を見ながら入力する日には税込を入れます。

直すのは周知ではなく、項目の切り方

直し方は、項目を「何の金額か」で分けることです。そして、会議で合計される数字は、人に入れさせずに計算させる。

入力させるのは、担当者が書類から迷わず写せる数字だけにします。

  • 月額(税抜・円)
  • 初期費用(税抜・円)
  • 契約月数

計算させるのは、集計に使う数字です。

  • 年額 = 月額 × 12
  • 契約総額 = 月額 × 契約月数 + 初期費用

項目名に単位と税区分を入れるのがポイントです。「月額(税抜・円)」と画面に書いてあれば、マニュアルを読んでいなくても迷いません。ルールを画面の中に移す、ということです。

HubSpotなら、この仕組みは標準機能にあります。取引に紐づく商品項目(ラインアイテム)に請求頻度と契約期間を持たせると、年間契約額(ACV)、年間経常収益(ARR)、月間経常収益(MRR)、契約総額(TCV)が自動で計算されます。HubSpotの説明では、契約総額はラインアイテムから計算され、取引の「金額」項目の値は考慮しません。人が入れた金額と、計算された金額が別物として並ぶ設計です。ここを知らずに「金額」項目だけでレポートを組むと、ずれはそのまま残ります。

もう1つ決めておくのが、レポートと予測がどの項目を合計するかです。ここを1つに決めて、ダッシュボードの説明欄に書いておく。合計する項目が決まっていないと、項目を分けても、人によって違う列を足し始めます。

過去の金額は、全件は直さない

設計を直すと、次に「過去のデータはどうするか」が出てきます。全件を直そうとすると、それだけで1か月が消えます。

直すのは、まだ動いているオープンの商談だけで十分です。担当者に自分の案件の金額を新しい項目で入れ直してもらう。1人あたり十数件なら、1回の営業会議の前に終わります。

受注済みの過去分は、請求の実績がすでに正しい数字を持っています。過去の受注額を分析に使うなら、CRMの値ではなく、会計側の税抜売上を正とする。CRMの過去値は直さず、「この日より前の取引金額は単位が混在」と注記を残して線を引きます。

ここで大事なのは、どちらが正かを先に決めておくことです。CRMと会計が食い違ったとき、毎回どちらが正しいか議論するのが、いちばん時間を食います。

「何に使う数字か」が画面で見えると、入力は揃う

金額の入れ方が揃わないのは、担当者の意識の問題に見えがちです。でも、入れる側から見ると、その数字が何に使われるかが見えていないだけ、ということが多い。

キーウォーカーが2025年10月8日から10日に実施した調査(PRIZMAによるインターネット調査、SFA・CRM・BIツール導入済み企業の営業部門の現場担当者と管理職1,034名)では、入力の動機付けになる要素の1位が「入力の目的やデータの使い道が明確」54.8%でした。同じ調査で、管理職のダッシュボードの用途の1位は「営業会議の数値確認」58.2%です。BIベンダーの自社調査なので比率は桁感として読む前提ですが、向きははっきりしています。取引金額は、まさに営業会議で合計される数字です。

「この数字は月次の会議で合計されて、翌月の採用と予算に使われる」。これが画面の項目名と説明文で伝わっていれば、税込を入れる人はかなり減ります。

顧客の社内工程まで含めて収益の設計を組み直す考え方は、レベニューアーキテクチャとはに置いています。

取引金額のずれは、入力ルールの周知では直りません。「何の金額か」を項目名で決めて入力させ、合計に使う数字は計算させる。これで、会議で足される数字が1つの意味に揃います。

今週、直近で受注した10件を開いてください。CRMの取引金額と、実際の請求書(税抜・月額換算)を横に並べて、倍率を出す。1.0、1.1、12のように倍率がばらついていたら、それは担当者の問題ではなく、項目が4つの問いを1つの枠に押し込んでいるサインです。

関連する記事

同じ言葉が部署や人によって違う意味で使われ、数字が合わなくなる構造は、金額に限りません。「リード」という言葉で同じことが起きたときの揃え方を部署ごとに「リード数」が合わないときの、定義の揃え方に書きました。定義を揃えたうえで、正とするシステムを1つに固定する。その考え方は、CRMと会計のどちらの金額を正とするかにもそのまま使えます。

同じ悩みの記事は「CRM・SFAが定着しない」にまとめています。