導入したのに使われない

「上が決めたから」で入れたツールは、推進役の異動で止まった

「上が決めたから」で入れたツールは、推進役の異動で止まった

号令で入れたツールが止まるタイミングには、共通点があります。

不満が積もった頃ではありません。号令をかけた人が異動した直後です。

原因は号令の弱さではなく、現場がまだ自分の理由を持てていなかったことです。

執行役員が毎週画面を開いていた3か月は、入力が揃っていた

あるBtoB企業で、CRMの全社導入が経営会議で決まりました。決めたのは執行役員本人です。導入初期、この執行役員は毎週の営業会議で自らCRMの画面を開き、担当者に自分の商談を説明させていました。

最初の3か月、入力はほぼ全員分そろっていました。4か月目、その執行役員が別事業の立ち上げに異動しました。異動の発表から後任の着任まで数週間、CRMを開いて確認する人が事実上いなくなりました。

号令の強さで押し切る判断は、間違いではなかった

この会社が最初にした判断は、号令の強さで押し切ることでした。導入説明会を1回開き、マニュアルを配布し、執行役員が定例で確認する体制を敷く。これは間違った判断ではありません。号令がなければ、最初の3か月の入力すら揃わなかったはずです。

抜けていたのは、号令とは別の理由を現場に持たせる工程でした。営業担当にとってCRMを開く理由が「執行役員に見られているから」の1つしかない状態は、その人が見なくなった瞬間に理由も消える設計です。

検討したのに選ばなかった案が1つあります。営業会議の議題そのものを、口頭報告ではなくCRMの数字から組み立て直す案です。これなら見る人が誰であっても、CRMを開かないと会議が進みません。マニュアルの追加や研修回数を増やす案は、最初から選びませんでした。同じ会社の別のツールで試して、入力率には効かなかった経験があったからです。

この案は「導入が落ち着いてからでいい」という理由で後回しにされました。落ち着く前に、号令をかけた人がいなくなりました。

後任が引き継いだのは、習慣ではなくログインだけだった

異動の発表から後任の着任まで、営業担当は元のやり方に戻りました。CRMには会議に必要な最小限だけを入れ、本当に使う情報は口頭とExcelに置く。後任が引き継いだのは、更新の止まったCRMでした。

異動した本人に悪気はありません。次の事業の立ち上げの方が忙しいのは当然で、前任地のCRMを気にする余裕は普通ありません。責めるべき人がいない、という点がこの話の厄介さです。

号令で入れたツールが止まるのは、号令が弱まったからではありません。現場が自分の理由を持つ前に、その理由を持っていた人が先に抜けたからです。号令をかけた人には、異動が決まった時点で、号令の効力を現場の理由に変換する期限が渡されているはずです。

よくあるつまずき

  • 号令の継続を、後任への引き継ぎ事項に入れる。 後任は前任の号令を引き継げません。引き継げるのは権限だけで、現場が号令に応じていた理由は引き継がれません
  • 「定着してから」次の工程に進める。 現場が号令だけで動いている期間は、定着しているように見えて、号令の主に依存しているだけです。号令が抜けた瞬間に初めて実態が分かります

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推進役を誰にするかという設計判断は、CRMの推進担当を、ツールに一番詳しい人にしてはいけないに書いています。今回のケースは、その設計より前の段階、号令だけで走り出してしまった場合の話です。

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