導入したのに使われない
CRM導入の進捗報告を月次にすると、現場は例外を作る
定着が止まっているとき、打ち手として最初に挙がるのは「経営層を巻き込む」です。キックオフに役員に出てもらう。月次の経営会議に進捗を載せる。
やると、たしかに何かが変わります。ただ、変わり方が説明と合っていない。
上が見ているから真面目にやるようになった、という話ではないんです。少なくとも私が見てきた範囲では、動き方が変わるのは「報告の場で何かが決まって、それが現場に返ってきた」ときだけでした。
報告を増やしても現場が動かないのは、その会から現場に何も返っていないとき
報告用の資料は、ほぼ例外なく上に向かって作られます。
キーウォーカーが営業部門の1,034人にダッシュボードの用途を聞いた調査があります(2025年11月11日公表、n=1,034。SFA・CRM・BIツールを導入済み企業の現場担当者527人と管理職507人。PRIZMAによるインターネット調査で、BIツールの導入支援を売っている企業の自社調査なので、比率は桁感として読んでください)。
管理職の回答は、営業会議の数値確認58.2%、活動の振り返り46.6%、業績の進捗確認41.0%、上司・役員への報告資料作成35.9%。そして「次のアクションの検討」が15.4%で最下位です。同じ設問の現場担当者は20.7%で、管理職より高い。
見る場所が上に行くほど、次に何をするかを決める用途が下がっています。確認と、その確認をさらに上へ渡す作業が上位を占めている。
定着プロジェクトの進捗報告も、放っておけば同じ形になります。入力率、ログイン率、研修の受講率。並べると仕事をしている感じは出るんですが、それだけです。どれも確認の材料で、そこから何かが決まる前提で作られていません。
だから報告頻度を上げると、現場には集計作業だけが増えます。協力が下がるのは当然で、意識の問題ではない。
止まっているのは、現場の権限では答えが出ない1件
稼働してから1か月くらい経つと、推進担当の手元に、答えの出ない依頼が溜まり始めます。
この項目、うちのチームだけ入力対象から外していいか。旧台帳との二重入力を、今月も続けていいか。値引きの記録を商談に残すと、他部署から見える。見えれば次の案件で「前回はこの率で通したよね」と詰められるので、営業は書きたくない。それでいいか。
どれも、現場のマネージャーの一存では決められません。他部署に影響するからです。かといって金額もつかないし、規程の変更でもない。稟議に乗せる名目がないんです。
じゃあ推進担当が部長に直接聞けばいい、という話になるんですが、これが聞きにくい。定例で「あの項目、やっぱり外していいですか」と出すと、要件を決めたのは自分たちなので、なぜ今ごろ、という空気になります。しかも見ているのは他部署の人たちです。1回それをやると、次から議題に出すのが重くなる。
そして、この種の依頼は1週間ほど放置されると現場で片がつきます。旧台帳を残したまま、CRMには会議に必要な分だけ入れる。値引きは備考欄に書かない。
現場は優秀です。答えが来ないなら来ないなりに、ちゃんと仕事が回る形を作る。困るのは、その優秀さがどこにも報告されないことだけです。一度できた例外は、あとから消すのがとても面倒になります。
稟議に乗る依頼のほうが速い。経路の無い判断は次の定例まで待つ
ここが、日本の現場でわりとよく見る逆転です。
プロフェッショナルテック総研(弁護士ドットコム内)が2025年1月16日に公表した稟議の実態調査(n=312。クラウドサインの利用者が対象なので電子化の進んだ企業に偏っており、日数は実態より短めに出ていると見てください)では、申請から承認完了までが2〜3日という回答が52.5%で最多、1日以上かかるが73.5%でした。課題としては、関わる人数の多さと、稟議書を書く前の根回しに時間がかかることが上位に並びます。
稟議は遅い、とよく言われます。関わる人数を思えば遅いのは確かです。ただ、過半数は数日で答えが返ってきている。ワークフローという経路があるからです。
さっきの「この項目を外していいか」には、その経路がありません。誰が決めるとも書かれていない。行き先は、次のプロジェクト定例か、次の報告会だけです。
月次で回していれば、単純に計算して平均15日、最悪で30日待つことになります。正式な承認より、正式ではない判断のほうが遅い。 これが、定着プロジェクトで起きていることの正体だと思っています。
報告頻度を上げると現場の協力が変わるのは、可視性が上がるからではありません。この待ち時間が30日から7日になるからです。
頻度は、詰まった1件が何日で例外に変わるかで決まる
その日数は、実測できます。
過去に自分たちが出した依頼を並べて、いつ答えが出たか、いつ現場が待つのをやめたかを見る。私が入った現場では、だいたい7営業日目あたりで旧台帳が復活していました。答えが来ないと分かるのに、それくらいかかるということだと思います。
測るときは、依頼を出した相手ごとに分けてください。現場のマネージャーが決められるもの、推進担当が決められるもの、それ以上の場でしか決まらないもの。数えるのは3つ目だけです。入力率より、この件数のほうが定着の健康状態をよく表します。
そのうえで、実測した日数より短い間隔で、決められる人が座る場を置く。会議でなくてもかまいません。決裁権のある人が15分だけ見て、その場で答えを返す。決める人がいない場をたくさん開くほうが、よほど重いので。
間隔を戻すタイミングも、日数では決めないほうがいい。「決めてほしい1件」が3回続けて空になったら、そこで延ばす。決めることがなくなったのに毎週集まると、報告のための報告が始まります。
採らなかった案が1つあります。 現場から直接プロジェクトオーナーへ上げる、エスカレーション経路を新設する案です。待ち時間だけ見れば、これがいちばん短い。
ただ、日本の組織でこれをやると、飛ばされた間の人の面子が立ちません。一度そうなると、次からその人経由の情報が止まります。待ち時間を7日縮める代わりに、報告の質が落ちる。経路を増やすより、既にある経路の回転を速くするほうが、結果的に速い。
最後に、報告に何を載せるかを1つだけ。進捗率を載せるのをやめて、「決めてほしい1件」と「前回決めたことが現場でどうなったか」の2つにする。
前者があると、その会が決める場になります。後者があると、決めた人に結果が返ります。どちらも無い報告は、頻度をいくら上げても集計作業のままです。
報告の間隔は、こちらが決めているつもりで、実はもう決まっています。現場がいつ待つのをやめるか。その日数を把握していないだけです。
よくあるつまずき
- 経営層の出席率を上げることを目的にする。 役員が座っていても、その場で答えを返す権限が誰にも無ければ、待ち時間は変わりません。見るのは出席者の役職ではなく、「その会で決まって現場に返った件数」です。ゼロが2回続いたら、その会は報告会であって判断の場ではない
- 決まったことを議事録に書いて終わりにする。 依頼を出した本人に返ってこないと、決まっていないのと同じです。現場が見ているのは会議体ではありません。自分が出した1件がどうなったか、それだけです
- 例外運用を見つけて、まず是正する。 例外は、答えが遅れた日数の記録です。消す前に、その依頼がいつ出て、いつ諦められたかを聞いてください。そこで出てくる日数が、報告の間隔を決める唯一の実測値になります
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報告の間隔を決めたあと、現場側の定例をどう変えるかは別の設計になります。マニュアルを増やさずに既存の会議の議題を組み替える方法は、マニュアルを作るより、週次会議の議題を変えるほうが効いたに書いています。
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